ABOUT

shogo hachikubo
八窪章吾
Sculptor / Gifu Japan
Artist Statement 2026
生きたものをつくる ―― 掌の必然と弱さの造形
私にとって「静寂」とは、単なる音の不在ではありません。それは、そこに存在する人々の静かな「呼吸」を聴くための、ゆたかな時間の形式です。作品と向き合うとき、この静寂は、像の奥底にある気配へと潜り込むための「対話の入口」となります。
彫刻の歴史には、理想や永遠を追い求め、見る者を圧倒する「力強い美」の系譜があります。それは人類が到達した一つの高貴な証です。しかし、私はその強固な輪郭とは異なる、誰もが抱える「揺らぎ」や「不確実性」の中にこそ、もう一つの真実が宿ると感じています。迷いのない一筋の稜線を示す代わりに、私はいくつもの好奇心による凹凸を重ねることで、形を成していきます。その弱々しい重なりを覆い隠すことなく、ありのままの現象として表出させること。それが私の信じる、誠実な造形の在り方です。
掌のなかの宇宙:隣人としての距離
私は、掌に収まる大きさの人物像を作り続けています。三人兄弟で育ち、自分の個室を持たなかった幼少期、私にとって唯一のプライベートスペースは「自分の机の上」というわずかな空間でした。そこで人形で遊びながら、自分だけの物語を紡ぎ出した孤独でゆたかな原体験が、今の私の制作が掌というスケールに収まる必然となりました。
私が創り出したいのは、力ある鑑賞物ではなく、現実世界の片隅に空想上の住人が当たり前に立ち現れ、共存している「生きた情景」です。その小さな体を両手で包み込み、日々の暮らしのなかで慈しみ、愛でる。共に過ごす時間のなかで、像との関係が静かに、そして確かに育っていく。掌の距離でこそ成し得るこの親密な関わりこそ、私の信じる「弱さ」という価値の姿なのです。
それは、日本の文化が古来より尊んできた和菓子の在り方にも似ています。和菓子は、水という普遍の源から始まり、日常の素材を用いて、一粒の中に季節の移ろいや広大な山河の気配を封じ込めます。大きければ良いのではなく、茶という文化に寄り添う「ちょうど良さの美」を貫きながら、その小さな器の中に無限の「宇宙」を成立させる。掌のスケールもまた、日々の暮らしの中で鑑賞者と対等に会話を交わし、心の向きや微かな震えを鏡のように共有し合える、最小で最大の宇宙なのです。
素材との対話:好奇心の堆積と、人の心の「機微」
私は素材と人、両者と対話しながらその時生きた痕跡を重ねます。骨格となる独自のブレンド粘土の上に、世界各地のピグメント(顔料粉末)、鉱石や自然土の粒子、パステル、油彩、和紙、そしてパラロイドによる透明層を、好奇心の赴くままに幾重にも堆積させていくこと。そして人の心の「柔らかな機微」を描くこと。二つの異なる道が拮抗し、重なり、進退を繰り返す。それはもはや理想を超えて、作品の中に「生きた時間の重なり」という現象としてただ刻まれていきます。
現実との共生:抗わない形
光や影、重力、そして鑑賞者の感受性。これらは現実世界に作品を表出させる上で、避けることのできない制約です。私の作品が佇む舞台は、洗練された芸術空間だけではありません。それは、人々の息遣いが聞こえる、ありふれた生活の営みの中にこそあります。私はそれらの制約に抗うのではなく、むしろ寄り添い、より良い形で調和していく姿を求めています。それもまた、揺らぎや弱さを抱えた造形だからこそ果たすことのできる、世界と繋がるためのかたちなのです。
私が創るのは、完成された完璧な像ではありません。揺らぎ、不完全なまま光と影の境界に佇むその姿は、鑑賞者が「私は私のままでいい」と静かに呼吸し、自らの中にある聖域へと立ち返るための、心の居場所なのです。
八窪章吾
2026.4.7
この言葉は、私の好奇心と進化とともに、これからも絶えず変化を続けていきます。
Materials
独自調合によるブレンド粘土 / 各国のピグメント(顔料粉末)、鉱石粉末、自然土、パステル、油彩、和紙、パラロイドによる透明層
(※作品により堆積の組み合わせは異なります)
Biography
学歴・職歴
2020 岐阜県恵那市に居住を移し本格的に制作活動開始
2020 陶磁器メーカー 退職
2009 陶磁器メーカー 就職
2008 名古屋芸術大学 デザイン科
クラフトメタルジュエリーコース 卒業
(在学中より独学にて彫刻の制作を開始)
個展
2026.6 「空気モレア」 / GOTTA、東京
2026.2 「contours」 / RITMUS、佐賀
2025.11「家温懷居」 / sayujib、ソウル・韓国
2025.9 「夜に見た人」 / 枯座、京都
2025.6 「TALK」 / GOTTA、東京
2025.4 「生きる」 / salon the room、岡山
2024.10「home」 / Gallery noir NOKTA、静岡
2024.8 「営む人々」 / GOTTA、東京
2024.8 「時光的河流」 / 山竹、台湾
2024.6 「ふと思い出したんだけれど」/ sonodacoffee、山口
2024.4 「 ávrio」 / kairai gallery、静岡
2024.3 「peace of mind」 / sayujib、韓国
2024.2 「光をみている」 / Reve Couture、大阪
2023.9 「未明から」 / hishito、鳥取
2023.9 「CAKE」 / galerie O、鳥取
2023.7 「DANCE」 / sonodacoffee、山口
2023.4 「海を見つける」 / kairai gallery、静岡
2023.3 「夢積む手紙をあなたへ」 / Reve Couture、大阪
2023.1 「澄んでいこう」 / 夕方喫茶、愛知
2022.10「home」 / Gallery noir NOKTA、静岡
2022.4 「夢の中で会う人たち」 / kairai gallery、静岡
2021.5 「inhabitant」 / c7c gallery、愛知
2020.12「喫茶の中の人たち」 / 喫茶ルモンド、岐阜
2020.9 「青いようなもの」 / 庭文庫、岐阜
2020.6 「水無月の人」 / アトリエ、岐阜
2020.4 「森の展示」 (WEB展示)
2019 「秋の夜長 優しい記憶」 / 夕方喫茶、愛知
グループ展・プロジェクト
2023.9 『ISETAN Arts & Crafts』 / 伊勢丹新宿店、東京
2022.9 『ISETAN Arts & Crafts』 / 伊勢丹新宿店、東京
2022.5 企画「遠い町にて」 / 蔦屋書店 GINZA SIX、東京
2022.4 「森のなかではなしをしよう」 / rizmの森、兵庫
2022.1 「残存共鳴」 / RITMUS、佐賀
2020.12「幻冬の小小屋」 / 夕方喫茶、愛知